新型コロナウイルスの騒動で、在宅勤務が奨励され、全国の学校は休校になっている。
私のSNSのタイムラインでは
「子どもが家にいてうるさくってしょうがない。在宅では仕事できないから自宅近くのコワーキングスペースで仕事しているのだが、どうもみんなでワイワイさせることに熱心で、全然集中できない!!! もう▲▲なんか使わないっ」(やや意訳を含む)
という書き込みがあり、これに賛同の声が上がっている。
「そうそう、○○もそう。全然集中できないっ」というような。
20200303WeWork_Hollywood-80

「co-」の意味

おいおい、「コワーキングスペース」の最初の「コ」の意味はわかっている?
「co-」を辞書で引くと

<co->
接頭辞
1. 共同の、共通の、相互の◆対等の立場・役割を表す。co-worker(同僚)、cowrite(共同執筆する)など。
2. 副、補助の◆従属的な役割を表す。copilot(副操縦士)、cofactor(補因子)など。

https://eow.alc.co.jp/search?q=co-
と書いてある。「コワーキングスペース」は「共同仕事場」で、ここに集まった人どうしで何かのコラボレーションができるようにする場所なんだよ。だからワイワイさせるのはコワーキングスペースの運営者の腕の見せ所であって、コワーキングスペースは個人が集中して仕事をする場所じゃないんだよ。
ある友人が「私がほしいのは『コワーキングスペース』じゃなくて『個ワーキングスペース』だ」と言っていたが、まさにその通り。集中したい人には本来の意味のコワーキングスペースは向かない。

フリーランスで仕事をしていると自分以外の現場のことはすっかりわからなくなり、これまでと同じことをルーティンでやり続けているうちはいいけれど、新たなことをやろうとすると自分ひとりの力ではどうしようもなくなって、共同作業者を迎えたくなる時がある。
また、若いフリーランスはいい仕事があればどんなものでもやりたい。
こういう人が「コワーキング」できるのが「コワーキングスペース」なんである。

アメリカのWeWorkに感動した

実は私はこのコワーキングスペースをアメリカで利用してすっかり好きになってしまった。若い衆がいつでもワサワサいて仕事の話を真剣にしている。みんな共同作業者や仕事がほしいから本当に真剣だ。活気がある。ポジティブだ。みんな楽しそうだ。
そもそもWeWorkのキャッチ・コピーが「Do What You Love」(好きなことをしよう)なのだ。楽しいよね。
20200303WeWork_DoWhatYouLove
私は楽しいことが大好きなので、アメリカにいて時間のある時には、別にホテルの自室やカフェでパソコン相手に仕事をすればいいようなときでもWeWorkを利用していた。
最初に使ったのはハリウッドのWeWorkだ。
20200303WeWork_Hollywood-79
このWeWorkはハリウッドのどまんなかにある。ここを借りているのは映画関係の人が多い。プロデューサーもいるし、監督もいる。メイクアップ・アーティストもいるし、照明さんもいる。
ここには試写室もあって、WeWorkのメンバーであれば借りることができる。
20200303WeWork_Hollywood-ScreeningRoom

私がここをはじめて訪問したのは、ここでミーティングが開かれたからだ。ここの楽しそうでワクワクする感じに一発でヤラれてしまい、その場で「自分もメンバーになりたいんだけど」と入会したのだった。

入会してみると、WeWorkの底力はリアルな場にだけあるのではないことがすぐに分かった。WeWorkのオンライン・コミュニティがすごいのである。入会してすぐに来たメッセージは
「僕はニューヨークの〇〇。美術大学を卒業して2年経ったアーティスト。ニューヨーク州の都市計画コンペに応募したら、なんと勝ってしまった。総予算〇〇億ドルの巨大都市計画だ。実は採用されたら、実施もやらなくてはいけない。でも僕はこんな大きな建物の建築家は知らないし、建築業者も知らない。庭もかっこいいデザインをしてこれが採用された大きな理由なんだが造園業者なんかもっと知らない。採用されるだなんて思ってもみなかったからだw 都市づくりのありとあらゆる人材が必要だ。すぐに僕に連絡をくださいっ!!!」
というものだった。
大笑い。
採用されるとは思わないで応募するデザイナー。この案の庭がかっこいいからと言って採用する州政府。両方ともあっぱれである。
これにどのくらいの応募があったのかわからないけれど、成功しているといいな。
こういうのが本当の「コワーキング」だと思った。オンライン、オフライン関係なくその場で新しい仕事を創っていく、じつに健全な姿だと思った。

個ワーキングしたいのなら自習室がいいんじゃないかな

ソフトバンクが出資して日本にもWeWorkが来ると聞いたときには全然来るのが待ちきれず、東京にできてすぐに会員になった。でも、この国ではアメリカのようなワイワイ楽しく、みんなで「Do What You Love」をしている感じが全く感じられず、利用もしなくなり、会員をやめてしまった。
アメリカと同じように会員同士の交流の機会は日本でも用意されているのだけれど、参加する人々は自分の会社の宣伝をするばかりで参加する他の人との共同作業は全く求めていないようなこと、
出資元の関係もあり、ソフトバンクを始め大企業がWeWorkを借りているのだけれど排他的。ソフトバンクはなにせ人数が多いので、ワーキング・スペースはワンフロアまるまるソフトバンクだったりするのだが、その中の会議室は一般の会員も使えるようになっている。でも、そのフロアに僕のような風貌の者が入ると、もうそれだけで嫌な顔をされる。
そして、どうも日本の人は「コワーキング」が好きじゃないようで「個ワーキング」したがること。ポジティブな交流がなかなかできないから、だったらわざわざこんな所を使わなくてもいい、と思ってしまった。
アメリカでは、ここはすごく楽しいので、再入会しようと思っているけど。

日本の人は「個ワーキング」が好きなのかな。知らない人とどんどん仲良くなって自分の仕事の幅を広げよう、だなんて思わないんだろうな。「Do What You Love」だなんて絵空事に感じるんだろうな。
そういう人は、コワーキングスペースじゃなくて、自習室を探したほうがいいんじゃないかな。他の誰とも会話せずに、自分の世界に没入できると思うよ。