2020年4月7日に出された新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態宣言は5月14日に東京都や大阪府を除く39県で解除された。
残る8都道府県に関しても「可能であれば宣言の期限を待つことなく、5月21日にも解除する」とした。
現在の状況では東京都はもう少し時間がかかりそうだけれど、程なく日本全国の非常事態宣言は解除されそうだ。
本日までの日本の新型コロナウイルスによる死亡者は768人。
「大騒ぎしたけど、結局大したことなかったね」と総括されるくらいの数である。
というのは、毎年やってくる季節性のインフルエンザでも毎年多くの人が亡くなっており、2018年には3,325人、2017年にも2,569人もの死亡者が出ているのである。
Flu_Japan_2012-2019
https://www.lab.toho-u.ac.jp/nurs/socio_epidemiology/blog/dqmvu90000000d2i.html
(平成30年人口動態統計. 上巻 死亡 第5-29表 をもとに東邦大学看護学部社会疫学研究室が作成)

つまり、新型コロナウイルスの死亡者よりも季節性のインフルエンザの方が多いのである。「確かに未知のウイルスで大騒ぎにはなったけど、季節性インフルエンザほどではなかった」とまとめられてしまう可能性が高い。

ヨーロッパやアメリカでは、こんな受け取り方はされず、このコロナウイルスの流行が終わったら生活様式や経済構造が全く変わる「ニュー・ノーマル」がやってくると言われている。たしかに、ニューヨークの病院には死体を格納する大型冷凍トレーラーが横付けされていたり、港には軍の病院船が係留されたり、という姿を目の当たりにしたら「これまでと同じ日常が戻ってくる」とは思えないだろう。

この自粛期間中に倒産する企業やその従業員には大変お気の毒だが、この期間に倒産してしまったのは十分な内部留保がなかった企業。日本の企業の内部留保総額は2018年度で463兆1308億円と言われており、めちゃくちゃ分厚い。
内部留保、7年連続で過去最大 18年度の法人企業統計【日本経済新聞】
ということは、コロナウイルスの感染拡大に伴って倒産してしまう企業は、そんなには多くはないはず。
ヨーロッパやアメリカでこんなに内部留保している会社はまれで、こんなに溜め込んでいると「資金の回転が悪い、投資せよ」と株主から要求されて、なにかに投資している。
ILOは2020年4月29日に「雇用喪失が拡大する中、世界の就業者の半数近くが瀕している生計手段を失う危険」があると声明を出しており、これに近い状況が起こりうる。

ヨーロッパやアメリカは「変わらざるを得ない」のである。
ところが日本は、新型コロナウイルスの感染拡大は、まぁまぁなんとか収めてしまった、これから第二波第三波も来るだろうけれど、これだけ第一波で大騒ぎしたので、役所も病院もノウハウを貯めていて、この先もまぁまぁなんとか収めちゃうんじゃないかと思う。

人間はギリギリまで追い詰められないとなかなか変われない。ヨーロッパやアメリカは追い詰められたから「変わらざるを得ない」。でも日本は、多分、大して変わらないね。変わる必要がないし、高齢化している人々にとっては生活様式を変える体力が、ない。

ここ何年かにも何度か「日本が変われるチャンス」があった。その最大のチャンスが東日本大震災後だった。この時日本が選んだのは「復興」じゃなくて「復旧」だった。名前こそ「復興」と言っているが精神は「復旧」である。震災直後には今回の被災地にはもう人は住まないようにして全部海浜公園にするのだ、というような大胆な計画もあったが、結局ほぼ元の場所で元の生活が送れるように、住んでいる場所からは海なんか見えなくなるような「スーパー防波堤」の方向になった。
経済にしても、生産体制や流通体制を見直す最高のチャンスだったのに、結局「復旧」してしまった。
今の東京を作ったのは、関東大震災後の「帝都復興院」であり、その総裁に就任した内務大臣・後藤新平だった。後藤は、震災を「理想的帝都建設のための絶好の機会」と捉え、東京の「復旧」ではなく「復興」を目指したのだ。
僕はこの頃後藤新平がこの時に行った施策や、抵抗勢力との接し方を勉強した。
でも、東日本大震災後にこういうことをやろうとする人物は、結局出てこなかった。
(参考サイト)
風景を変えた「関東大震災」都市計画史上初の区画整理が果たした東京復興事業【LIFE BATON】

2008年−2009年のリーマン・ショックの時にもチャンスはあった。ヨーロッパやアメリカはこの時に相当変わった。今使われている「ニュー・ノーマル」という言葉も、元はと言えばリーマン・ショック後にできた言葉だ。

アメリカの知識層が「ニュー・ノーマル」をどう捉えているのかよく分かる冊子がある。「MITテクノロジーレビュー」がまとめたeムック「New Normal 変わる生活」である。(pdfファイル)
20200519MIT_NewNormal

ヨーロッパやアメリカは変化して次のステージに行き、日本は「復旧」して元の暮らしに戻る。
世界中の「昔が大好き」な人がたまらない国になっていくね。