CDなんて古臭くなってユーザーがストリーミングへと流れていく音楽ビジネス。旧守派はCDの時にやっていたビジネス・モデルをストリーミングでも実施しようとしている。

そんな中、Jay Zがスウェーデンのベンチャー企業Aspiroを買収した。買収金額は6000万ドル(120円換算で72億円)と噂されている。Aspiroは音楽ストリーミング・サービス「Tidal」を運営している。会員数は54万人。競合のSpotifyの6000万人(そのうち有料会員は1500万人)と比べると現状ではいかにも少ない。
しかし、Jay Zはアーティスト側への分配比率を高めて、ビッグ・アーティストのストリーミング・プラットフォームとして「Tidal」を利用させることで、主導権を握ろうとしている。

音楽業界は、音楽ストリーミングが出てきた時、「新たなCDのプロモーション手段」としか考えていなかった。ラジオを聞いてCDが欲しくなるのと同じように。だから、使用料の料率を下げた。「タダじゃ困るけど、これでCDが売れるのならばいいではないか」と。しかし、世の中は変わっていた。ストリーミングで自分の聞きたい曲が聞きたいときに聞けて、さらにリコメンデーション機能によって知らなかった音楽にも触れることができるようになると、音楽をCDやダウンロードで所有することがアホらしくなった。音楽の消費行動に「お金を払う」ということがなくなったのだ。アーティストは、「タダじゃ困るけど、これでCDが売れるのならばいいではないか」と決まったわずかな配分に甘んじることになった。
昨年から今年にかけて一番音楽を売ったテイラー・スウィフトはSpotifyなどのストリーミング・サービスへの自分の曲の配給を拒否した。しかしその結果YouTubeのプレイ数が増えただけで、CDの売上につながったわけではなかった。
このままでは音楽では食えなくなる、という危惧が音楽業界全体を襲った。
音楽業界のエグゼクティブを務めたジミー・アイオヴィンがアップルに入社して、この流れを音楽業界向けに変えてくれるのではないかという期待があった。しかし、このアップルの新しい音楽ストリーミング・サービスの発表が遅れている。当初、アップル・ウォッチと同じ3月9日に発表されるのではないかと思われていたが、この日の発表は見送られた。アップルが新製品を発表する次の機会は6月のWWDCなので、ここなのではないかという推測もあるが、はっきりしない。ハリウッドでは、音楽業界の意識とITの意識が真っ向からぶつかって、まだ仕様すら決まっていないのではないかと予想する者もいる。

こんな中、アーティストきってのビジネス・マンJay Zがスウェーデンのベンチャー企業を買収した。
発表会には以下のようなスーパー・スターたちが居並んだ。

20150331_TIDAL

Jay Z
マドンナ
テイラー・スウィフト
ビヨンセ
カニエ・ウエスト
ジェイソン・アルディーン
ダフト・パンク
リアーナ
コールドプレイ
アッシャー
ニッキー・ミナージュ
ジャック・ホワイト
カルヴィン・ハリス
アーケイド・ファイア
デッドマウス
J.コール
アリシア・キーズ

サービス利用料は、ハイレゾ月額$19.99(120円換算約2400円)、通常音質月額$9.99(約1200円)である。
 
20150331_TIDAL_price
http://tidal.com/us
 
サービスがスタートすると、リアーナの新曲やビヨンセの新しいビデオ、カルヴィン・ハリスの新しいミックスは他のどこでもなくて「Tidal」で公開されることになる。

今回の発表会への出演依頼は、2月8日に行われたグラミー賞授賞式の直前にJay Z自らが各アーティストに直接呼びかけて実現したのだそうである。

音楽業界も、やっと少しずつ変わり始める。楽しみである。
あとは、アップルがどう出てくるのか。最終的には、これで当面の音楽業界のビジネスの方向が決まると思う。

(参考にした音楽業界誌「Billboard」オンラインの記事)