先日「越境EC」という単語を初めて知った。日本で展開しているオンライン・ショップを海外でも展開することなんだそうである。「越境」というなにやらハードルの高そうな単語を選んでいる段階ですでに「むずかしそう」という印象を与えているのだと思う。

これまで日本のマーケットでそこそこの成功をおさめた会社が売上拡大のために狙うのはどういうわけだかアジアである。なのでこの「越境EC」も、ほとんどの場合中国を中心としたアジアである。最近、銀座などで買い物をしていると中国人の購入パワーに気圧される。そもそもすれ違う人に中国語圏から来たと思われる人が多いし、そのいずれもが大量の買い物をしているように見える。こういう光景を見てしまうと「日本のものはそのまま中国でいける」という感覚になってしまうんだろうね。

20150525_China

これまで日本というマーケットで成功してきたオンライン・ショップは、日本という文化で日本語を使って成功してきたわけだから、これを中国風にアレンジすれば中国でも成功するかもしれないと踏んでいるのだろう。


複数のマーケットでビジネスしていく時に取る施策は以下の3つである。
1)それぞれのマーケットに寄り添う
2)どのマーケットであっても一つの価値観で押し通す
3)1)と2)の中間

1)それぞれのマーケットに寄り添う
マーケットごとにニーズを計測してそれおれ別々の商品を開発し、売りだす。日本国内でもカップ麺などは関東マーケットと関西マーケットでは味付けが異なるそうだ。
韓国のサムスン電子が取っている施策がこれ。サムスンがインドで売っている冷蔵庫には鍵が付いている。使用人が勝手に冷蔵庫の中の物を使わないようにするためだ。中東圏で売っているスマホには礼拝の時間のアラームとメッカの方向がわかるアプリがプリ・インストールされている。
中国のマーケットは私はあまりわからないけれど、東南アジアには小さなマーケットがいっぱいある。マレーシアとインドネシアは日本からすると近くて同じように見えてしまうのかもしれないけれど、別のマーケットである。「東南アジア」のマーケットの数はいったいどのくらいあるのか、全然わからない。
マーケットに寄り添う方法は、マーケットにしっかり根付いて、十分に費用を投入しないと実施できないので「越境」と言っているような会社の取れる施策ではない。

2)どのマーケットであっても一つの価値観で押し通す
ヒューレット・パッカードの販売の考え方はまさにこれであった。開発に独自の価値観があり、この価値観を売るのである。私が担当していたマーケティング用ソフトウエアの開発には「マーケティングかくあるべき」という信念とも言えるものがあり、ソフトウエアを買っていただくことはその信念に共感していただくことであった。
自分の売っている食品の味付けが、あるマーケットに好まれないからといっても味を変えることがなく「おせんべいの味はこれが一番なのだ」という信念がある会社ならこの方法でいけるだろう。
日本にいたまま、現地の事情なんか関係なく「越境」してものを販売するというなら、このタイプは向いている。しかし、この場合は「これが嫌なら買ってくれんでもいい」と毅然としていないとダメで、「ああ、中国では売れないよぉ、どうしよう」とうろたえるような会社には向いていない。

3)1)と2)の中間
Microsoft Officeがこれ。例えば「ワード」は世界どこに行ってもワードである。「ワード」のようなワープロ・ソフトが一番いいんだ、という価値観を含んでいる。だが、言語パックをプラスすることによって日本語でもヒンディー語でもワードが使える。日本語用には日本語版、ヒンディー語用にはヒンディー語版というように別の商品を買わなくても言語パックをプラスすることによって言語数は増やせる。「ワード」一つで英語、日本語、ヒンディー語混在の文書を作成することもできる。ただし、どんな言語でもこのパックが有るかというとそうでもない。言語キットの開発にかかった費用に見合う売上が上がるなら開発されるが、その見込みが無い言語に関しては扱わない。ヒンディー語のパックはあるがベンガル語、テルグ語、マラーティー語、タミル語、ウルドゥー語などはない。

各マーケットに対応するなら1)のタイプで徹底的にやる。
または2)のタイプで割り切って一切対応しないか、どちらかがいい。
3)のタイプで勝負できる製品は、そうはないだろう。
あなたが売りたい商品はどのタイプ?