20151201

昨年末でヒューレット・パッカードを退職して、デジタル・マーケティングの世界と距離ができて約1年。次第にデジタル・マーケティングを離れた距離から冷静に見つめることができるようになった。

デジタル・マーケティングが目指すものは結局、何なのか?
何が実現すれば売っている方も買う方もうれしいのか?

私の結論は、「個人商店のおばちゃんがやっているようなことを大規模に実現すること」である。
個人商店の魚屋のおばちゃんは「Aさんは新モノが入ったら必ず喜んで買ってくれる」とか「Bさんは青魚がキライ、いくら勧めても買ってくれない」ということを多くのお客に関して知っていて接客している。お客一人ひとりの好みを知っていれば売る方は確実に売れるし、買う方もキライな青魚を無理に勧められて辟易することもない。両者ハッピーにお買い物ができるのである。売り手と買い手が対等だ。

マス・マーケティングをやってきた企業にはこういうことはできなかった。
「主婦の好みが変化している」とか「30代主婦にはこれが売れている」とか、「埼玉県の主婦にはこれが売れる」という統計的情報を得るのがせいぜいだった。
インターネットでお買い物をするのが一般的になってデータが得られるようになると、これが細かくできるようになる。「お刺身を買った人においしいお醤油を勧めると買ってくれる」とか「価格を400円から398円に下げるとこのくらい余計に売れる」とか。従来勘と経験で「やっぱり末尾98円は売れるでしょう」と言っていた事の統計化。これだけでも大きな進歩である。
しかし、デジタル・マーケティングの目指すところはこのまだ先で、「個人商店のおばちゃんがやっているようなことを大規模に実現すること」。個人商店の魚屋のおばちゃんの知見である「Aさんは新モノが入ったら必ず喜んで買ってくれる」とか「Bさんは青魚がキライ、いくら勧めても買ってくれない」ということを「すべての」お客に関して知っていていること。それを元に接客することである。売り手がお客一人ひとりの好みを知っていてムダな仕入れをせずに確実に売り、買う方もキライな青魚を無理に勧められて辟易させない、両者ハッピーにお買い物。これが目標点。
この段階では統計的な分析なんかどうでも良くなる。「主婦の好みが変化している」とか「30代主婦にはこれが売れている」とか「埼玉県の主婦にはこれが売れる」とかいう事は、数字をまとめてみればもちろんわかるし、仕入れ総数を決めるときには必要な数字だ。でも、その前に個々のお客さんの好みと実際の購買行動のデータをきちんと得て、これを積み重ねることが必要だ。

現在のデジタル・マーケティングは、少し離れて見ると半端に見える。商売はお客に嫌われたらおしまいだが、嫌われることばかりをしているように見える。理想の姿は「青魚が食べたくなったら青魚に関する情報がタイムリーにネットからどんどん出てきて、興味がなくなったらパタッと消える」ことなんだけど、いっぺん青魚に関して検索しようものならネット上どこに行っても青魚が追いかけてくる。これ、消費者としてウザいでしょ?
家電激戦区の池袋や新宿の量販店にテレビを見に行くとパナソニックやソニーのジャンパーを着たお兄さんが近づいてきて買うまで離してくれない雰囲気、こういうお店には行きたくなくなってしまうのだけれど、ネットではこんなことばっかり。仕事の都合でちょっとamazonでテレビの値段を調べただけなのにFacebookで追いかけてくるし、企画書のために海外のきれいな写真を検索していたら旅行会社のバナーがいつまでも追いかけてくる。「イグアスの滝には、当分行く予定はありません!!!(怒)」。

デジタル・マーケティング施策を実施中の皆さん、
あなたの目的は何ですか? 売ることでしょう? お客さんに喜んでもらうことでしょう?
ネット上でお客さんをストーキングすることでも、
お客さんが音を上げるまであなたのバナーを見せ続けることでもないでしょう?
もうちょっと、そしてもう一回自分の目的を考えてみよう。
お客を疲れさせてどうする?
これが、現在「デジタル・マーケティング」と言われているものに関して、少し現場から距離をおいてみての感想である。

「個人商店のやっていることを大規模に実施」という概念は、もう、ものすごく前のものである。
多分いまのデジタル・キッズが知らない20年前の本を紹介しよう。
「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」である。



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