インターネットで世界がつながり、世界中どこに行っても自分が居住している所のいつもの環境でいたいと思うようになってきた。
世界中を飛び回る人が多い国では昔から当たり前のことで、アメリカはヒルトン・ホテルやハイアット・ホテルを世界中に作り、世界どこでもアメリカン・エクスプレスやビザ・カードが使えるようにしてきた。これは別にアメリカの政府がやった施策ではなく、アメリカの民間企業が商売を考えてやってきたことだ。

経済産業省が音頭を取って、訪日観光客向けの日本独自の決済アプリの実証実験を始めるのだそうだ。

買い物決済、スマホアプリで=訪日客向けに開発−経産省

両替所が少なく、クレジットカード対応も十分でない日本の買い物環境は訪日客の間では不評だ

と。
なので、

そこで経済産業省は、訪日客の消費のさらなる拡大に向け、スマートフォン向け決済アプリの開発に乗り出す。

なんだ、これは?

前半と後半が「そこで」で接続しているけれど、全然意味が接続してないじゃないか。

確かに

両替所が少なく、クレジットカード対応も十分でない日本の買い物環境は訪日客の間では不評

なのだろう。これは容易に想像できる。
だったらやるべきことは民間が両替所をやりたくなる環境を作ったり、クレジット・カードの対応をしたくなるような施策であって、日本独自の決済システムを作ることではない。

この記事によると

銀座三越での外国人客に対する売り上げは2012年には全体の2%程度だったが、今は約25%を占めるまでになった

のだそうである。
この多くが中国人観光客であろう。
日本を訪れるような中国人は本国でのいつものような決済環境がほしいから不満になるのであって、日本独自の決済システムなんかがあっても意味は無い。中国で約6億人に普及していて世界中での発行枚数が20億枚にも及んでいると言われる銀聯カードが普通に使えたり、WeChat Paymentが使えたりするのでないと、この問題の解決にはならないのだ。
日本人は多額の現金を持ち運ぶ。この記事の言うようにクレジット・カードを使える店が少ないからだ。でも、中国は違う。中国では紙幣の最高金額が100元札(約2000円)であり、10万円の買い物をした場合には100元札 を50枚も支払うことになる。中国の紙幣は非常に分厚く、中国紙幣20枚は日本紙幣100枚分と同程度の厚さなのだ。かさばる。中国では、偽札も多く出回っているために買い物のたびに紙幣をチェックするので買い物に時間がかかる。そこで、決済後すぐに銀行の口座から代金が引き落とされるデビット方式のこのカードが日本の現金代わりに使われているのだ。
WeChat Paymentはスマートフォン時代になって急激に普及してきた楽天ペイメントとかLINEペイメントのような仕組みで、もう4億人が使っているのだという。

銀聯カード

WeChat Payment

日本政府はいつでもずれている。「日本独自」が偉いと思っているし、そうでなければいけないという信念のようなものさえ感じてしまう。
商売をやっている人も中国人観光客で食っていく気があるのなら、中国流の決済システムは導入した方がいい。1万円以上の買い物しか対象にならない免税店の許可を日本政府に申請するより、100円のアイスクリーム1個でも中国の決済システムでお金をもらえるようにしたほうがいいと思うのだけれどもね。

余談だが、中国に行くことがあるなら、銀聯カードは持っていたほうが便利だ。中国では、アメリカ系のホテルなど以外は日本で普通に使えるクレジット・カードが使えないことが多い。銀聯カードの加盟店はビザやマスター・カードが使える全国80万店舗の3倍の240万店舗である。実は三井住友銀行や東京三菱UFJ銀行が発行するクレジット・カードを持っていると銀聯クレジット・カードが発行される。

20160103UnionPay

それにしても「日本独自の」っていう見出しを見るたんびに、感覚のずれに辟易としてしまうね。