11月20日にアデルのアルバム「25」が出てから2か月が過ぎた。日本にいると全然実感がないかもしれないけれど、音楽の世界にとってこのアルバムの売れ方は「とんでもないこと」「異常事態」だった。

20160117_Adele25
http://adele.hostess.co.jp/
(アデルの日本の公式サイト)

アメリカだけですでに800万ユニットを売り、ヨーロッパ全土、オセアニアなど、世界のほとんどすべての国で1位になった。
この記事などは、アデルが1位にならなかった稀有な国として韓国、日本、ギリシアを上げている。
 
The 3 countries where Adele’s ’25’ did not hit no. 1

このような売れ行きは2000年のボーイズ・グループ「N Sync」以来で、21世紀になって初。アメリカで発売以来3週連続100万ユニット以上を売ったのは初。

色んな人がこの大ヒットを分析しているけれど、みんなよくわからない。
「ファン層が幅広い。大人も子どもも聞ける」とか
「YouTubeに『Hello』1曲しか上げなかった」とか
「イギリスのBBCのアデル特番と、全米でオンエアされたアデルの特番がすばらしかった」とか
「Spotifyなどの音楽ストリーミング・サービスでも『Hello』1曲しか聞けない」とか
「クリスマス・プレゼントにはダウンロードじゃなくて実物じゃなきゃダメ。子どもたちが欲しがったので」
とか
言うんだけれど、一つの分析で全てはカバーしきれない。
そのうちに「音楽のヒットには絶対なんてないんだよ」だなんて開き直る人も出てくる始末。これじゃあ、闇の中で手を伸ばして「ヒットしてくれ」ってお祈りしているようなもんだ。

いま、アメリカの音楽業界ではデータ・ドリブン・マーケティングが進んでいる。過去の楽曲と関連するデータをバッチリ持っている会社があって、歌詞と曲調を分析して「どのラジオ局で何回くらいエア・プレイされる」「YouTubeでは何回くらい再生される」「ツイートの数はこのくらい」「Spotifyのどのプレイ・リストにはいつごろ掲載される」などを予測する。これが通常は恐ろしいほどによく当たる。ところが、今回のこの「異常事態」は、この会社でも予測できなかった。
アメリカでは音楽ラジオ局は細分化されており、ロックのラジオ局ではブラック・ミュージックはかからないし、ヒップ・ホップのラジオ局でロックの曲がかかるなんてことは、通常、ない。ところが、アデルに関してはヒップ・ホップの局でもロックの局でもエア・プレイされたのだ。
SNSでの発言も、通常はアーティストの持っているフォロワーや「いいね!」数をベースに推測するらしいんだけれど、今回のツイート数は誰も予測できなかった。
アデルのアルバム「25」に関しては、データ・ドリブン・マーケティングでは実現できないことが数多く浮き彫りにされたのである。

あっぱれアデルである。
今回データが取れたから、今後このような作品が現れたら、この会社は的確な予測をすることができるだろう。

そもそも、データ・ドリブン・マーケティングは「失敗しないマーケティング」を示唆することはできるが「成功するマーケティング」を示唆することはできない。
過去の事例は、遡ってデータを持っていれば以前のでき事から今回の予測をすることができる。しかし、アデルのように前例が全く無いものは予測ができない。マーケティングに必要なデータは「いつもの標準的なデータ」ではなく、今回のアデルのように「極端なデータ」なのである。これが少しずつ揃えば、もう一回極端な事態が起きても次回は「異常事態」にまではしないで済む。

マーケティングに必要な知恵は「普通の商品を、普通に宣伝して、普通の店頭展開で、普通の値段で売ったらどのくらい売れるか」という、超基礎データを元に、「どのくらい異常な商品を、どのくらい異常な宣伝活動をして、どのくらい異常な流通展開や店頭展開をし、どのくらい異常な価格で売ったら、どのくらいうれるか」という予測をできるようにしておく、ということなんである。
前者の「普通の商品を、普通に宣伝して、普通の店頭展開で、普通の値段で売ったらどのくらい売れるか」は負けないためのデータ・ドリブン・マーケティング。後者の「どのくらい異常な商品を、どのくらい異常な宣伝活動をして、どのくらい異常な流通展開や店頭展開をし、どのくらい異常な価格で売ったら、どのくらいうれるか」は勝つためのデータ・ドリブン・マーケティング。
まだ、勝つためのデータ・ドリブン・マーケティングに至るのには、データが足りない。

アメリカでもヨーロッパでも、あまりテレビに出ないアデルだが、2月16日のグラミー賞のパフォーマンスはやるだろうと思う。11月発売のアデルの「25」は今年の受賞対象外なので、もらえるとしたら来年になるのだけれど、パフォーマンスはとても楽しみだ。その後、2月24日のBRITs Awardsの方はノミネートされているので出演が決定している。グラミー賞はWOWOWで生放送するけれど、BRITs AwardsはGoogle Play Musicでライヴ・ストリーミングするのだそうだ。楽しみにしよう。

(グラミー賞 WOWOW)
http://www.wowow.co.jp/music/grammy/?ad_id=gs00000029431
(BRITs Awards Google Play Music)
http://www.brits.co.uk/news/google-play-music-return-for-brits-2016