フォードが日本から撤退する。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160125-00000056-reut-bus_all
フォードは日本市場で2014年度(2014年4月から2015年3月まで)の新車登録数が4,544台、その前の2013年度は4,570台だった。
(http://www.jaia-jp.org/wp-content/uploads/2015/04/2014FY_NewCarNews.pdf 日本自動車輸入組合発表)
(http://www.jaia-jp.org/wp-content/uploads/2015/04/2014FY_NewCarNews.pdf 日本自動車輸入組合発表)
フォードは世界で632万台を売っていて、世界の中の日本の割合は1%にも満たない。
日本で1年間に売れる国産車と輸入車の合計も約600万台だから、日本におけるフォードのシェアも1%未満である。
ここまでよく我慢したものだと思う。
日本のマーケットはむずかしい。安全基準が高くてこのためのコストがかかるし、右ハンドルじゃなきゃいけない、とか、ブレーキ・ランプはこのくらいの明るさじゃなきゃいけない、とかいう、国土交通省の規制も大きい。でも、これはどんな国でも多少なりともあることだ。
マーケティング・コミュニケーションにおける本国アメリカのやり方が全く通用しないのだ。アメリカ式のテレビ・コマーシャルも受けず、アメリカ式のイベントも人が集まらない。アメリカ式の価格戦略も効果なく、原価割れ寸前まで価格を下げたところで売れはしない。
アメリカ本社はまず、法規制に関して「ロビイストを雇ってアメリカ並みの規制にするようにしろ」というが、日本の自動車メーカーと比べてあまりに力が弱いのでなかなか通らない。アメリカ政府に助けを求めても日本での現状の売上が小さすぎるので、せいぜい東京の大使館の商務担当が話を聞いてくれる程度だ。
「じゃあ、しかたがない」と、法規制の部分までは仕様変更などで対応してくれるのだが、マーケティング・コミュニケーションに関しては、そうはいかない。「世界共通で巨大なお金をかけて制作しているクリエイティブの変更は認めない」と言ってくる。「このクリエイティブで中国でもヨーロッパでも売れているのだから、日本で売れないのは日本法人の力不足だ」ということになる。
これを繰り返していると日本の従業員は次第に無気力になり、本国の言いなりになる。文句があっても言わないようになるのだ。
全体の1%もないところから撤退するのは会社にとっては痛くも痒くもない。日本企業の例で言うと、売上が悪いからといって稚内とか根室の営業所を閉鎖するくらいのものだ。
これから、こういうアメリカ企業が増えていくと思う。同じ自動車で言うとフォードよりももっと売れていないGMがまだ日本に拠点を構えているのが不思議だ。
日本だけじゃなくて世界中で調子が悪いマクドナルドが一気に日本撤退を表明してもおかしくない。
最近社長が交代したP&Gも、いつまで日本のマーケットで頑張れるかわからない。
アメリカ企業にとってアメリカでうまくいくこと=世界でうまくいくこと、なのである。法規制とそれへの適合はともかく、「スター・ウォーズ」の新作の公開初週の興行収入ランキングが1位にならない稀有な国であり、アデルが1週たりとも1位にならないという、変わった文化を持つ日本におけるマーケティング・コミュニケーションなんて、理解を超えている。
できれば日本は「近寄りたくない国」になってきているのである。