EDM (Electric Dance Music)の大手企業「SFXエンターテインメント」が破産申請をした。

SFX ENTERTAINMENT FILES FOR BANKRUPTCY IN THE US
20160209_SFX_Article
http://www.musicbusinessworldwide.com/sfx-entertainment-files-for-bankruptcy-in-the-us/

EDMはここしばらく音楽のトレンドを作り出してきたが、このSFXエンターテインメントはこのジャンル専門のプロモート会社の一つだ。
ヨーロッパやブラジルで開催される巨大フェスティバル「Tomorrowland」やこのアメリカ版の「TomorrowWorld」の運営会社である。他にも「Sensation」、「Electric Zoo」、「Stereosonic」などのフェスティバルを運営するほか、EDMの音源のオンライン・ストアである「Beatport」を運営してきた。
このせいでフェスティバルが中止になっても、儲かると思う他の人がやるかもしれないけれど、EDMの音源のオンライン・ストアである「Beatport」がストップするとDJやトラック・メイカーの「仕入れ」ができなくなり、またここで音源を売っているアーティストの生活も危うくなる。そこで、Beatportはいち早く「Beatportの営業は従来通り継続するし、クリエイターへの支払いも問題ない」とメッセージを出した。

THE BEAT GOES ON
(Beatport blog)

大物DJのDeadmau5は、1400万ドルでこの会社を買う、とTwitterでオファーした。

Yeah... We see that. All good. I'll throw you 14 million for whatever's left if you want?
pic.twitter.com/88NGfcEZxP


当面、経営陣を入れ替えて、従来の事業は継続していく、というのがSFXエンターテインメントからのメッセージだけれども、フェスティバルの開催などには少なからず影響が出てくるのだろう。

「Tomorrowland」などのイベントは多くの人が入場し、世界中にテレビ放映されていて、なんでこの会社が潰れちゃうんだろう、と思う人もいると思う。私は、SFXエンタテインメントが株式市場に上場していなかったらこういうふうにはならなかったんじゃないかと想像している。
EDM普及にはお金がかかる。従来型のポップ・ミュージックを伝播するメインの方法は、相変わらずマス・メディアである。アメリカでは相変わらずラジオが音楽プロモーションのメインの方法だ。しかし、新しいものはなかなかマス・メディアには乗らない。インターネット、特にSNSなどを活用するのだけれど、インターネットを使うのには、マス・メディアを使うよりもお金がかかる。インターネット・サービスの会社でも資金が調達できるとマス・メディアの広告をやるのを見てもわかるだろう。そのため、SFXエンタテインメントは株式市場への上場という道を選んだ。市場で資金を調達し、有力なフェスティバルやサービスの運営会社を買収しして傘下に収めるという方法をとったのだ。
会社の創立は2012年、翌年2013年にはNASDAQへの上場を果たし、この年にBeatportの100%やTomorrowlandを運営するID&Tの株の75%を買収している。
破産申請の段階で、SFXエンタテインメントの所有するブランドは以下の通り、膨大である。(https://en.wikipedia.org/wiki/SFX_Entertainment

<Festivals and promoters>
Disco Productions
Disco Donnie Presents
ID&T (75% stake)
Energy
Mysteryland
Sensation
Q-dance
Tomorrowland
Life in Color
Rock in Rio (50% stake)
Rock in Rio
Rock in Rio Lisboa
Rock in Rio Madrid
Rock in Rio USA
Miami Marketing Group
Liv
Story
Voodoo Experience
i-Motion
Nature One
Made Event
Electric Zoo
Totem OneLove
Stereosonic
Creamfields Australia
b2s (50% stake)

<Digital>
Arc90
Beatport
Fame House
Paylogic (75%)
Tunezy
Flavorus

上場すると監査が厳しくなり、株主への報告も欠かせず、株主に理解のできない支出を勝手にすることができない。音楽ビジネスは、将来年間10億が稼げると信じれば現状の売上が50万円しかなくても1000万円かけてプロモーションしなければいけない。DJ A氏には5000万円もギャラを弾むが、同じようなパフォーマンスをするB氏には5万円しか払わないこともある。こういうクレイジーなお金の使い方が上場すると、できにくくなる。日本でも吉本興業やホリプロが上場廃止しているが、世間の良識のあるお金の使い方では、このビジネスはなかなかうまくいかないのである。
ショー・ビジネスは「非日常」を創るビジネスである。したがって、振る舞いやお金の使い方も非日常である必要がある。
きっと、SFXエンタテインメントは、お金の使い方に自由がなかったんだろうな、と思う。
上場なんかしなくても資金が集まる方法が他にあれば問題なかったのだが。