「America First」ドナルド・トランプ大統領が就任したり、イギリスがEUから脱退したり、フランスやドイツなどで極右的政権誕生の可能性が取りざたされたりしています。この一連の流れが示すのが「アンチ・グローバリスム」です。
「グローバリズム」とは、地球を一つの共同体とみなし、世界の一体化(グローバル化)を進める思想のことです。現代では、グローバル企業が国境なんか関係なく地球規模で経済活動を展開する行為や、自由貿易および市場主義経済を全地球上に拡大させる思想などを表しています。
「グローバリズム」は「ネオ・リベラリズム」の考え方の普及と関連があります。「ネオ・リベラリズム」は、市場経済に対して個人の自由や市場原理を再評価し、政府による個人や市場への介入は最低限とすべきという考え方です。
(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』278-304ページ)

世界を不幸にしたグローバリズムの正体
ジョセフ・E. スティグリッツ
徳間書店
2002-05


ドナルド・レーガン以降のアメリカの歴代の政権はこのような考え方のもと、アメリカに本社を置くグローバル企業が世界の隅々で活動できるように後押しし、その結果我々が使っているパソコンはWindowsマシンかAppleなどのアメリカ企業のもの、使っているソフトウエアはMicrosoft Officeなどのアメリカ企業のもの、使っているサービスはGoogleやFacebookなどの、これまたアメリカ企業のもの、という風になっていったのです。
現在アメリカで成功しているグローバル企業のほとんどは根底に「ネオ・リベラリズム」の考え方があり、政府による個人や市場への介入は最低限とすべきという考え方です。

これらの企業にとって非常に邪魔なのは各国の政府や国ごとに異なる法規制や商習慣です。
いくら大きなグローバル企業といえどもリソースは限られていますから、同じ努力でスコスコと売れるマーケットにならいくらでも肩入れするけれども、頑張っても頑張っても売れないマーケットに関してはどんどん腰が引けていき、場合によっては撤退ということになります。
2016年にアメリカの自動車メーカー、フォードが日本市場からの撤退を表明しましたが、これなどがこの代表です。

グローバル企業から見えているグローバル・マーケットとその中での日本マーケットの位置と言うのはどのようなものなのでしょうか?
例えとして、いま日本全国を相手にしている企業に対し、ある地域だけが特殊なルールを定めて「こうじゃないと商売できない」という事態になったらどうなるかを考えてみましょう。
世界のGDP合計は日本円換算で約8000兆円です。
それに対し、日本のGDPは約500兆円です。世界に占める日本の割合は約6.5%ということになります。
こういう県を日本で探してみると、愛知県が該当しました。愛知県の県民総生産は35兆4475億円で、日本のGDPの約7%を占める県なんです。
 
この愛知県が、たとえば「地元企業の出店ならいいけど、それ以外の地域に本社のある企業の出店禁止」とか「環境保護のため愛知県産の木材だけを燃料とする自動車しか売っちゃダメ」とか「愛知県では地元企業以外のプリンタやコピー機を使ったらダメ」などというルールを作ったら? 
または、ルールじゃないけど「地元のトヨタが強すぎてホンダも日産も全然売れない」とか「食習慣が他の地域と違いすぎて、赤味噌とソース以外の調味料が全然売れない」とかいう、人々の気持ちが他の全国と全然違っていたら?
愛知県だけに特別の製品とかサービス、仕様を用意しなければいけなくなりますね。だとしたら日本企業はどうするでしょうか?
ホンダや日産は愛知県向けに愛知県産の木材が効率よく使える木炭自動車を開発するのでしょうか?
キヤノンやエプソンは愛知県に本社を移すでしょうか? または、愛知県のために独立した法人を作り、ここで生産したプリンタやコピー機を愛知県のためだけに供給するでしょうか?
キッコーマンや味の素は愛知県マーケットのために、赤味噌やソースを開発して売るでしょうか?

この「全体の6%とか7%」というのが実に微妙な数値ですね。
「愛知県は非常に重要なマーケットだから愛知県に投資して商売を伸ばそう」という会社と「愛知県には割くリソースはもったいないから、同じ努力で普通に売れる他県で頑張ろう。ついては愛知県からは撤退しよう」という会社の両方がありそうです。

昔の日本はすごかったです。
世界のGDPに占める日本の割合はもっともっと高かったのです。
20170314_GDP_Share_USA_China_Japan
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2009/2009honbun/html/i3110000.html

一番のピークは1994-95年の18%。この頃は、世界の富の2割近くをこの日本が生み出していたのです。2割近くもあると、本社も「日本のマーケットが多少特殊だろうが、かわった商習慣があろうが、ここに投資して、リソースもここに割こう」と考えます。ところが6%とか7%で、しかも商売には相当の努力が必要だとなると、このマーケットに腰が引ける可能性が高くなってしまいます。
今の世界における日本は、日本における愛知県と同じようなものなのです。
あなたが日本全体をマーケットとする企業の経営者なら愛知県はどう扱いますか?
あなたがグローバル企業の経営者なら日本はどう扱いますか? もし「私が日本出身だから日本は重視する」と言ったら、それは株主からなんと言われますか?