最近の私とクライアントとの会話。
私「ヴォーカルはロサンゼルスとボストンで2曲ずつ録ります」
クライアント「え? ちょっと待って下さいよ、海外録音の予算なんて出せませんよ」
私「ああ、驚かせちゃってごめんなさい、インターネットでつないで、日本で作ったトラックにアメリカでヴォーカルをダビングしてもらいます。クラウド・コンピューティングでつながっているので、音はリアルタイムでチェックできますし、ディレクションはテキスト・チャットでできるし、Skypeで話しながらでもできますから。なので、私たちがアメリカに行く必要はありません」
クライアント「ほっ。じゃ、予算は大丈夫なんですね」
デジタル・オーディオ・ワークステーション各社はクラウド・コラボレーションに力を入れているので、こういうことが簡単にできるようになった。

http://www.avid.com/ja/avid-cloud-collaboration-for-pro-tools
いい時代である。
最近はゲスト・アーティストというか「featuring xxxx」というかたちで、有名シンガーを呼び物にして発表される楽曲が多いけれど、その多くは同じスタジオで録音しているんじゃなくて、それぞれ別のスタジオで歌っているだよね。
でも、たまには顔を見ながら、同じスタジオで録音をしたいよね。便利になってはいるけれど、なんかつまんない。ずっと東京にいるのも飽きちゃうしね。
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遠く離れた街で録音されたものを聞く、といえば、少し前におもしろい体験をした。ある新製品の発表にあたり、この製品を事前に体験してもらった上でのフォーカス・グループ・インタビューがアメリカやヨーロッパ、東京など世界各地で開かれ、日本におけるコミュニケーションの企画のため、この音声データを全て聞かせてもらうことができたのだ。私は日本語と英語しか聞き取ることができないので、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンと東京、名古屋とシンガポールのインタビューを聞かせてもらった。このインタビューにはマニュアルが確立しているようで、どの年でもどの言語でも同じ内容を決められたとおりに聞き取っている。


そうしたら、日本だけ反応が違うのである。東京と名古屋以外の各都市では、すごくポジティブな意見ばかりが聞き取れた。「斬新なデザインだ」「驚異の軽さだ」「150ドルまでなら出す」など。
それに対して日本では「デザインが変だ、これでは買う気にならない」「(軽すぎて)しっかり感がない」「10年くらい前に出た○○という商品を知っているか? 知らない? そりゃそうだ、失敗した商品だからだ。この○○と今回の商品の共通点は……」などなど。
なるほど、日本というマーケットは特殊だよね。英語圏ではうまくいきそうなポジティブな反応が満ち満ちているのに日本ではぜんぜん違うよね。(だから、私のところにも仕事が来たんだけれど)
こうやって簡単に世界中どこでもつながるようになっているのに、消費者の感覚が異なっているマーケットでは、一生懸命この製品を売り込もうという気になんかならないよね。