ナイキの創業者フィル・ナイトが書いた「SHOE DOG」を読んでみた。

SHOE DOG(シュードッグ)
フィル・ナイト
東洋経済新報社
2017-10-27


三省堂書店の神保町本店のレジの店員さんが胸に「SHOE DOG」のバッジを付けていたからだ。村上春樹さんとか、最近だったらカズオ・イシグロのバッジを付けているというなら普通だけれど、東洋経済新報社が出すようなビジネス書のバッジってどういうことなんだろう、と思ったからだ。「スニーカー・マニアなのかな?」

年寄りの回顧録ほどおもしろくないものはない。日経新聞に掲載されている「私の履歴書」なんて最低中の最低だ。老人の自慢話になんか全然興味がわかない。
ところが、この本はおもしろかった。ワクワクするストーリー仕立てだったのだ。ナイキが最初は日本のオニツカタイガーのスニーカーの販売代理店としてスタートしたことや当時はまだナイキという社名じゃなかったこととかはこの本で知ったけれど、そんなことは大したことじゃない。この本の帯に「フィル・ナイトは天性のストーリ・テラーだ ウォーレン・バフェット」と書いてあったので、英語版も読んでみた。



ところが、英語版を読んでみると、別になんともない普通の回顧録だ。確かにここで紹介されるエピソードは、普通の人には体験できないようなものすごいものばかりなのだけれど、日本語版で読んだグイグイ行く感じがさっぱり無い。このドライブ感は訳者が生み出したもののようだ。

訳者は大田黒奉之さん。amazon.co.jpで調べてみると、過去の訳書は
『ジョー・ストラマーの生涯』
『ミック・ジャガーの成功哲学』
『ロック・コネクション』
『ザ・クラッシュ コンプリート・ワークス』
『デヴィッド・ボウイ コンプリート・ワークス』
『キース・リチャーズ、かく語りき』
『イーグルス コンプリート・ワークス』
なんだよ、音楽ものばかりじゃないか。
なるほどねぇ、音楽ものをずっと手がけてきた訳者の日本語が、このストリート相まって心地よくどんどんページを繰らせていたんだなぁ、と思った。音楽性が高い翻訳家なんだねw

そういえば僕の大好きなジェフリー・アーチャーの作品も翻訳家の永井淳さんが亡くなって翻訳者が交代してからワクワク感がなくなってしまった。最近作『クリフトン年代記』もすごく良い作品なんだけれど、今の翻訳ではグイグイ前に行く感じが無いんだよね。

外国の作品を日本語で読むなら翻訳家、すごく大事。もっと良いのは原文でグイグイ読める力を付けることなんだけれどもね。