この夏、私を考えさせたのは「あいちトリエンナーレ」の一企画として開催された「表現の不自由展・その後」の中止だ。

https://aichitriennale.jp/artist/after-freedom-of-expression.html
3年ごとに開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」は2019年8月1日から10月14日まで75日間開催されることになっている。今回の芸術監督は津田大介氏である。この一企画として「表現の不自由展・その後」という企画展が開催されたが、3日間で中止に追い込まれた。
開催2日めに会場を視察した名古屋市長が、愛知県知事に「日本国民の心を踏みにじる行為であり許されない」とする抗議をし、展示中止を求めたようだ。この企画展にはキム・ソギョン/キム・ウンソン作の「平和の少女像」が展示されており、これを見た河村たかし名古屋市長は囲み取材で「国民の心を踏みにじるものだから撤去されるべき」と語り、その後、正式な文書として撤去を求めている。
さらに、菅義偉官房長官も、「あいちトリエンナーレ」に対する文化庁の補助金、約7,800万円の交付について、「決定にあたっては事実関係を確認して適切に対応したい」との姿勢を示した。
これらのことが引き金になったのか、実行委員会や関連する官公庁や団体に「撤去をしなければガソリンの携行缶を持ってお邪魔する」などというような脅迫が殺到し、この企画展は中止されたのだ。
これに対し、主催者の愛知県知事の大村秀章氏は記者会見で「私どもの考え方は、行政が展覧会の中身にコミットしてしまうのは、控えなければならない(というものだ)。そうしないと、芸術祭じゃなくなる。(今回の展示によって)『表現の自由の議論を』という趣旨は多くの人に届いた、ということで理解をもらいたい」と語っている。(大村知事一問一答「行政がコミット、芸術祭でなくなる」【朝日新聞DIGITAL】 https://www.asahi.com/articles/ASM836G75M83OIPE02G.html)
「表現の自由」には、制限がない。あってはいけない。
ローマのコロッセオで行われていたような殺し合いを見せるような表現だって自由だ。ただし、本当に殺そうとするなら殺人罪や殺人未遂罪で捕まるだけだ。
人を脅迫するような表現だって自由だ。ただし、脅迫罪で捕まるだけだ。
他の罪で捕まることはあっても、それでも表現の自由はある。表現の自由自体は無制限だ。
「撤去をしなければガソリンの携行缶を持ってお邪魔する」とファックスした人も、表現の自由を行使したのだ。
今回の仕掛けを行った津田大介さんのねらいである「表現の自由を考える」ことは、今回の騒ぎで果たされたのかもしれない。普段「表現の自由」に関してなんか考えることなんか、ほとんどないのだから。