Dennis 50

インターネットで本当にコミュニケーションは変わったのかなあ? 購買行動は変わったのかなぁ? できる限り、実験してみたいと思います。

経営のこと

2016/01/21(木) 晴れ 教科書通りにやらないからうまくいかない

今日も悲しい話を聞いた。コンサルタントを入れたにもかかわらず、コンサルタントの言うことのうち自分にとって都合のいい部分だけ取り入れ、あとは勝手にやって失敗した例。このコンサルタントはクビになってしまった。
こういうコンサルタントの使い方が後を絶たない。こういう使い方では、いくら優秀なコンサルタントでも能力を発揮できない。

経営書も同じである。
経営学は学問であるから、あくまで一般化された事柄が書いてある。実務者にとっては「自分の経営環境とここが違う」「学者先生の言っていることだから」と言って、せっかく読破した本のことは忘れてしまったり、都合のいいセリフを会社の朝礼でちょこっと引用するだけだったりする。

星野リゾートの星野佳路さんは違う。とにかく教科書通りにやってみるのだ。「星野リゾートの教科書」という本には、星野さんがとにかく本を隅から隅までよく読み、本に書かれている内容をつまみ食いしないで100%自社で実践してみて、本に書かれている一般論で自社がうまくいくところを見つけ出し、うまくいかない部分があればこれを修正していく有様が書かれている。

星野リゾートの教科書
中沢 康彦
日経BP社
2010-04-15


どこにでもある旅館を高級旅館として再生した時のマイケル・ポーター著『競争の戦略』の活用法、
市場で埋没したリゾートを立て直した時のフィリップ・コトラー著『コトラーのマーケティング・マネジメント』の活用法、
ブランド価値を高める改革を行った時のアル・ライズ著『ブランド・エクイティ戦略』の活用法など
有名な本の指し示す施策をいかに100%その通りに実施し、その結果どうなったかがインタビュー形式で語られている。
この「100%書いてあるとおりにやってみる」ということの難しさも書いてあるし、ブック・ガイドとしても読める。

こう考えると、『もしドラ』(正式には『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』)の主人公の高校野球のマネージャーも同じだ。(文庫版も出版された)



ドラッカーが書いていることを忠実に野球部に当てはめたらどうなるかを真剣に考えて実行した話。
最近、続編『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』も出た。



人の言うことを100%実行する、って、抵抗があるのかなぁ?
やってみると良いと思うよ。

 

2016/01/03(日) 晴れ また「日本独自の……」

インターネットで世界がつながり、世界中どこに行っても自分が居住している所のいつもの環境でいたいと思うようになってきた。
世界中を飛び回る人が多い国では昔から当たり前のことで、アメリカはヒルトン・ホテルやハイアット・ホテルを世界中に作り、世界どこでもアメリカン・エクスプレスやビザ・カードが使えるようにしてきた。これは別にアメリカの政府がやった施策ではなく、アメリカの民間企業が商売を考えてやってきたことだ。

経済産業省が音頭を取って、訪日観光客向けの日本独自の決済アプリの実証実験を始めるのだそうだ。

買い物決済、スマホアプリで=訪日客向けに開発−経産省

両替所が少なく、クレジットカード対応も十分でない日本の買い物環境は訪日客の間では不評だ

と。
なので、

そこで経済産業省は、訪日客の消費のさらなる拡大に向け、スマートフォン向け決済アプリの開発に乗り出す。

なんだ、これは?

前半と後半が「そこで」で接続しているけれど、全然意味が接続してないじゃないか。

確かに

両替所が少なく、クレジットカード対応も十分でない日本の買い物環境は訪日客の間では不評

なのだろう。これは容易に想像できる。
だったらやるべきことは民間が両替所をやりたくなる環境を作ったり、クレジット・カードの対応をしたくなるような施策であって、日本独自の決済システムを作ることではない。

この記事によると

銀座三越での外国人客に対する売り上げは2012年には全体の2%程度だったが、今は約25%を占めるまでになった

のだそうである。
この多くが中国人観光客であろう。
日本を訪れるような中国人は本国でのいつものような決済環境がほしいから不満になるのであって、日本独自の決済システムなんかがあっても意味は無い。中国で約6億人に普及していて世界中での発行枚数が20億枚にも及んでいると言われる銀聯カードが普通に使えたり、WeChat Paymentが使えたりするのでないと、この問題の解決にはならないのだ。
日本人は多額の現金を持ち運ぶ。この記事の言うようにクレジット・カードを使える店が少ないからだ。でも、中国は違う。中国では紙幣の最高金額が100元札(約2000円)であり、10万円の買い物をした場合には100元札 を50枚も支払うことになる。中国の紙幣は非常に分厚く、中国紙幣20枚は日本紙幣100枚分と同程度の厚さなのだ。かさばる。中国では、偽札も多く出回っているために買い物のたびに紙幣をチェックするので買い物に時間がかかる。そこで、決済後すぐに銀行の口座から代金が引き落とされるデビット方式のこのカードが日本の現金代わりに使われているのだ。
WeChat Paymentはスマートフォン時代になって急激に普及してきた楽天ペイメントとかLINEペイメントのような仕組みで、もう4億人が使っているのだという。

銀聯カード

WeChat Payment

日本政府はいつでもずれている。「日本独自」が偉いと思っているし、そうでなければいけないという信念のようなものさえ感じてしまう。
商売をやっている人も中国人観光客で食っていく気があるのなら、中国流の決済システムは導入した方がいい。1万円以上の買い物しか対象にならない免税店の許可を日本政府に申請するより、100円のアイスクリーム1個でも中国の決済システムでお金をもらえるようにしたほうがいいと思うのだけれどもね。

余談だが、中国に行くことがあるなら、銀聯カードは持っていたほうが便利だ。中国では、アメリカ系のホテルなど以外は日本で普通に使えるクレジット・カードが使えないことが多い。銀聯カードの加盟店はビザやマスター・カードが使える全国80万店舗の3倍の240万店舗である。実は三井住友銀行や東京三菱UFJ銀行が発行するクレジット・カードを持っていると銀聯クレジット・カードが発行される。

20160103UnionPay

それにしても「日本独自の」っていう見出しを見るたんびに、感覚のずれに辟易としてしまうね。

2015/11/02(月) 雨 「うちの会社売りに出されます」

一昨日から、急に寒くなった。
先月の今頃は27度とか28度まで気温が上がっていたので、ひとつきで15度くらい下がったのである。 
電車の中で足がすうすうして「冬物出さなくっちゃ」と思って、打合せに向かった。

20151102Tokyo201510
20151102Tokyo201511

その打合せの席で「うちの会社売りに出されると先週アメリカのメディアに報道されました」と言われた。
もちろん、外資系の会社である。
私は」「ああ、そうですかぁ」だなんて、のんきに答えちゃったけど、言った方ものんきなもんである。
私も入ったばかりの会社が買収されるという経験をしたけど、勤務先が変わらずに2年間に3回オーナーが変わった同僚もいた。
アメリカやイギリスの会社に勤めていると、買収なんて日常茶飯のできごとで、もうこの事自体に全然反応しなくなる。
日本では「リストラ」というと社員の首切りみたくなっているけれど、アメリカで「restoructure」というと会社の部門の売り買いのことだからね。
自社で持っていても資産価値が高まらない部門をもっと活かしてくれて高値を付けてくれる会社に売る、ということ。日本の企業で「買収されました」と言うと敗北感を味わうようだけれど、そんな感覚は皆無。

事業ポートフォリオは、活かしてこそポートフォリオ。自分たちで生かし切れない事業は誰かに活かしてもらおう。

 

2015/10/31(土) 曇り バルニバービ、上場おめでとうございます

飲食業のバルニバービが上場し、初値は公開価格の2500円に対し2.3倍だったのだという。
本当におめでとうございます。

1999年から2000年にかけて、私は大阪市の創業支援事業「あきないえーど」の仕事をしていた。大阪に移り住んで、関西の創業志望者たちのお手伝いをしていたのである。
この時に、バルニバービの佐藤社長には大変お世話になった。
バルニバービでは社内創業支援制度があって、この話をキーに飲食店で創業をめざす人たち向けのセミナーをやってもらったりしていた。
「あきないえーど」のオフィスは船場センタービルにあったので、そばの「GARB」は何かというと利用させてもらった。歓送迎会とか、誰かにちょっといいことがあった時とか。
2000年の4月にはいまはなき大阪厚生年金会館で「あきないえーど2000」というイベントの打ち上げを会場の前の新町公園でやった。桜の時期だったので、桜のきれいな公園で打ち上げを楽しもうということ。この時のケータリングをバルニバービにやってもらった。

佐藤社長の考え方は、私の「データ本位のマーケテイング」とは異なり、「こんな場所にこんな店があったら、自分が行きたいなと思える店」を作るというものであった。
この頃の話が、あきないえーどの所長だった吉田雅紀さんが関わっていた頃の「ドリームゲート」のコンテンツに残っている。

当時30代のいつでも前のめりの青年だった佐藤さんも、最近はナイス・ミドル風になっているけれど、考えていることは変わらないようだ。現在のバルニバービのウェブサイトの「社長メッセージ」に書かれていることは、当時そのまんまだ。

20151031Barnibabi

バルニバービ、上場おめでとうございます。
こういう信念のある経営者のいる会社って素敵だよね。


2015/09/24(木) 曇り 【老害】東芝もフォルクスワーゲンも根は同じではないか、という指摘

フォルクスワーゲンが、アメリカで走らせているクリーン・ディーゼル車の試験の際に不正を働いたのだと報道された。
最初私は例によってセンセーショナルな報道が好きなアメリカの報道機関が大げさに伝えているのだろうと思っていたのだけれど、どうやら本当だったらしい。

2015年9月18日、アメリカの環境保護庁は、フォルクスワーゲンが、アメリカの自動車排出ガス規制をクリアするため、ディーゼル自動車に不正なソフトウェアを搭載していたと発表した。このソフトウェアは、試験(FTP-75)であることを自動検知し、排気ガスをコントロールする機能をフル稼働し有害物質の量が大幅に減るようになっていた。しかし、自動車が通常走行する場合は、環境基準の40倍に上る窒素酸化物などを排出していた。通常走行でも規制に適合するようソフトウェアを修正すると、燃費の劣化、馬力の低下、および部品寿命の短縮が見込まれる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3

これをうけて、フォルクスワーゲンはCEOのマルティン・ヴィンターコーン氏が辞任し、対象となるクルマはアメリカだけではなくて全世界で1100万台にも及ぶのだと発表した。

20150924Wintercorn

今日、この界隈に詳しい人と会った。どうやら、このフォルクスワーゲンの不正は、東芝の不正ととても良く似ているのだということだ。
東芝は2008年度から2014年度第3四半期まで不適切な会計を行っていた。
この不適切会計には4つの手法が使われたとのことである。 http://toyokeizai.net/articles/-/78801
・「インフラ事業における工事進行基準」受注した工事の進捗度に合わせて、収益と原価を割り振る方法である。最初に工事原価総額を過小に見積もることで、原価が収益を超過した分=工事損失引当金を計上しなかった。
・「映像事業の経費計上」主にテレビ事業で、取引先に請求書の発行などを遅らせてもらい、広告費や物流費を翌四半期に先送りする。
・「半導体事業の在庫評価」損失を認識していたにもかかわらず、在庫の廃棄まで評価損を計上しなかった。
・「パソコン事業の部品の押し込み販売」グループ会社との取引で生じた調達価格とマスキング価格の“差額”を、製造原価のマイナスという形で、利益計上していた。

この不正には歴代の会長・社長といった経営トップが関与していたと報道されている。細かいことを会長・社長が知っていたかどうかはわからないが、経営陣からは「チャレンジ」という言い方で利益計上のものすごく高い目標が設定され、これが達成できない社員は無能だとされたので、誰も文句も言えずに着々と不正が積み重ねられたのだという。
これが、フォルクスワーゲンの今回の事態と大変良く似ているのだというのである。

フォルクスワーゲンには、フェルディナント・ピエヒ氏という名物経営者がいた。
フォルクスワーゲン傘下のアウディ出身で、1993年に親会社のフォルクスワーゲンのCEOに就任し、2002年まで同職を務めた。このあと2002年から2006年末までのベルント・ピシェッツリーダー氏をはさんで、2007年年頭からCEOを務めてきたのが今回辞任するマルティン・ヴィンターコーン氏である。ヴィンターコーン氏はピエヒ氏と同じアウディ出身で、考え方が近いとされている。今年まで8年に及ぶヴィンターコーン氏の在任期間中、フォルクスワーゲンは販売を倍増させ、利益をほぼ3倍に伸ばした。すごい社長なんである。
この「すごい社長に何も言えなかった」のが東芝と同じなんだというのである。
現場でこういう作戦が実施されていたことをヴィンターコーン氏が知っていたかどうかはわからない。でも、今回の不正は、どうやら2008年くらいからずっと行われていたようである。

マルティン・ヴィンターコーン VW社長に責任論 排ガス不正、就任2年後から

「すごい社長」「すごい経営陣」。社員の誰もが物申せなくなって自然と不正に手を染める。これが東芝とフォルクスワーゲンに共通したことなのだ。
まさに老害。
会社は、こうならないようにしていかないといけない。これこそがコーポレート・ガバナンスであろう。

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