Dennis 50

インターネットで本当にコミュニケーションは変わったのかなあ? 購買行動は変わったのかなぁ? できる限り、実験してみたいと思います。

データ・ドリブン・マーケティング

2016/01/17(日) 曇り データ・ドリブン・マーケティングでは成し遂げられないこと

11月20日にアデルのアルバム「25」が出てから2か月が過ぎた。日本にいると全然実感がないかもしれないけれど、音楽の世界にとってこのアルバムの売れ方は「とんでもないこと」「異常事態」だった。

20160117_Adele25
http://adele.hostess.co.jp/
(アデルの日本の公式サイト)

アメリカだけですでに800万ユニットを売り、ヨーロッパ全土、オセアニアなど、世界のほとんどすべての国で1位になった。
この記事などは、アデルが1位にならなかった稀有な国として韓国、日本、ギリシアを上げている。
 
The 3 countries where Adele’s ’25’ did not hit no. 1

このような売れ行きは2000年のボーイズ・グループ「N Sync」以来で、21世紀になって初。アメリカで発売以来3週連続100万ユニット以上を売ったのは初。

色んな人がこの大ヒットを分析しているけれど、みんなよくわからない。
「ファン層が幅広い。大人も子どもも聞ける」とか
「YouTubeに『Hello』1曲しか上げなかった」とか
「イギリスのBBCのアデル特番と、全米でオンエアされたアデルの特番がすばらしかった」とか
「Spotifyなどの音楽ストリーミング・サービスでも『Hello』1曲しか聞けない」とか
「クリスマス・プレゼントにはダウンロードじゃなくて実物じゃなきゃダメ。子どもたちが欲しがったので」
とか
言うんだけれど、一つの分析で全てはカバーしきれない。
そのうちに「音楽のヒットには絶対なんてないんだよ」だなんて開き直る人も出てくる始末。これじゃあ、闇の中で手を伸ばして「ヒットしてくれ」ってお祈りしているようなもんだ。

いま、アメリカの音楽業界ではデータ・ドリブン・マーケティングが進んでいる。過去の楽曲と関連するデータをバッチリ持っている会社があって、歌詞と曲調を分析して「どのラジオ局で何回くらいエア・プレイされる」「YouTubeでは何回くらい再生される」「ツイートの数はこのくらい」「Spotifyのどのプレイ・リストにはいつごろ掲載される」などを予測する。これが通常は恐ろしいほどによく当たる。ところが、今回のこの「異常事態」は、この会社でも予測できなかった。
アメリカでは音楽ラジオ局は細分化されており、ロックのラジオ局ではブラック・ミュージックはかからないし、ヒップ・ホップのラジオ局でロックの曲がかかるなんてことは、通常、ない。ところが、アデルに関してはヒップ・ホップの局でもロックの局でもエア・プレイされたのだ。
SNSでの発言も、通常はアーティストの持っているフォロワーや「いいね!」数をベースに推測するらしいんだけれど、今回のツイート数は誰も予測できなかった。
アデルのアルバム「25」に関しては、データ・ドリブン・マーケティングでは実現できないことが数多く浮き彫りにされたのである。

あっぱれアデルである。
今回データが取れたから、今後このような作品が現れたら、この会社は的確な予測をすることができるだろう。

そもそも、データ・ドリブン・マーケティングは「失敗しないマーケティング」を示唆することはできるが「成功するマーケティング」を示唆することはできない。
過去の事例は、遡ってデータを持っていれば以前のでき事から今回の予測をすることができる。しかし、アデルのように前例が全く無いものは予測ができない。マーケティングに必要なデータは「いつもの標準的なデータ」ではなく、今回のアデルのように「極端なデータ」なのである。これが少しずつ揃えば、もう一回極端な事態が起きても次回は「異常事態」にまではしないで済む。

マーケティングに必要な知恵は「普通の商品を、普通に宣伝して、普通の店頭展開で、普通の値段で売ったらどのくらい売れるか」という、超基礎データを元に、「どのくらい異常な商品を、どのくらい異常な宣伝活動をして、どのくらい異常な流通展開や店頭展開をし、どのくらい異常な価格で売ったら、どのくらいうれるか」という予測をできるようにしておく、ということなんである。
前者の「普通の商品を、普通に宣伝して、普通の店頭展開で、普通の値段で売ったらどのくらい売れるか」は負けないためのデータ・ドリブン・マーケティング。後者の「どのくらい異常な商品を、どのくらい異常な宣伝活動をして、どのくらい異常な流通展開や店頭展開をし、どのくらい異常な価格で売ったら、どのくらいうれるか」は勝つためのデータ・ドリブン・マーケティング。
まだ、勝つためのデータ・ドリブン・マーケティングに至るのには、データが足りない。

アメリカでもヨーロッパでも、あまりテレビに出ないアデルだが、2月16日のグラミー賞のパフォーマンスはやるだろうと思う。11月発売のアデルの「25」は今年の受賞対象外なので、もらえるとしたら来年になるのだけれど、パフォーマンスはとても楽しみだ。その後、2月24日のBRITs Awardsの方はノミネートされているので出演が決定している。グラミー賞はWOWOWで生放送するけれど、BRITs AwardsはGoogle Play Musicでライヴ・ストリーミングするのだそうだ。楽しみにしよう。

(グラミー賞 WOWOW)
http://www.wowow.co.jp/music/grammy/?ad_id=gs00000029431
(BRITs Awards Google Play Music)
http://www.brits.co.uk/news/google-play-music-return-for-brits-2016
 

2015/10/09(金) 晴れ 失敗をバネに、変化に対応していく姿勢がデータ・ドリブン・マーケティング

どういう物なら売れるか理詰めでわかっていれば、確実に物は売れる。
どうすれば人は笑うのかと理詰めでわかっていれば、お笑いスターとして成功する。
どういう歌を歌えば受けるのかが理詰めでわかっていれば、歌手として成功する。

ところが、この「どういう物」というのが日々刻々と変化するので、このトレンドを瞬間瞬間で掴んで「どういう物」をどんどん変化させていくというのがデータ・ドリブン・マーケティングの基本的な考え方だ。

このためには、
●物事は変化するのだ、という基本的な気持ちを持っている
●成功を予測するためには失敗が必要だということを理解している
●観測された結果から予想される取るべき対応をすぐに実行できるチカラが必要である
逆にうまくいかないのは
●何かをスタートさせるのには事前に十分計画しなければならない
●失敗は許されない
●一度計画したら、そう簡単には方針は変更しない
というようなマインド・セットが深く浸透しているような場合。こういう企業文化だと、データを使ったマーケティングはうまくいかない。

ユニクロを運営するファーストリテイリングの株価が決算発表を受けて急落した。2015年8月期の連結業績は、売上高、利益ともに過去最高で、売上高は前期比21.6%増の1兆6,817億円、営業利益は26.1%増の1,644億円、純利益は47.6%増の1,100億円となったにもかかわらずである。

20151009FirstRetaiking

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、決算会見の席上、
「マストレンド、いわば世の中の変化、ファッションの変化を捉えられなかった。変化に対する注意力が足りず、生産の量やコレクションの幅も少なかった。その結果、ほとんどすべてのコア商品で欠品が起きた。ショートパンツやTシャツ、ポロシャツ…。そういった夏の商品で最後のフォローができていなかった」
と述べている。
こういうこともあってか、ファーストリテイリングはさる2015年6月15日にアクセンチュアとビッグデータ活用の新会社を発足させると発表した。
世界約3,000店の店舗やネット通販の顧客データから売れ筋の変化などを綿密に予測する。また、2020年にも客が好みの柄や素材を選んで自分だけの商品を注文できるようにするのだそうである。一律の商品を大量販売する従来手法を見直して、ZARAとかH&Mといった海外勢を追い上げるのだそうである。

私は、株価が下がってしまったのは短期的には残念だけれど、このような経営姿勢は素晴らしいと思う。
サントリーのソフト・ドリンクが相次いで新発売早々欠品した問題や、今回のファーストリテイリングの問題のような、失敗が新たな展開を生むのである。
変化の激しい時代、失敗を機に、どんどんジャンプしていかないといけない、と思う。

データ・ドリブン・マーケティングとは、攻めのマーケティングではない。守りのマーケティングである。世の中の変化を敏感に察知してこれに順応していくマーケティングである。「順応」であるから、トリガーは外部である。データ・ドリブン・マーケティングでは、新しいマーケットを創っていくことはできない。
新しいマーケットは、プロダクト・アウトで、自分たちがいいと思うものをまずはマーケットにドカンと投入し、これに対する評価や反応、実際の購買行動を計測して、変化が起きたマーケットに順応していくことによって強固なものとなっていく。
攻めのマーケティングと守りのマーケティングを両立させること、そのためには失敗を恐れてはいけないのだ、というのが、最近の変化の激しい時代のマーケティングであろう。

2015/07/03(金) 雨 シュートの数で戦ってるわけじゃない

サッカー評論家の松木安太郎さんの解説が大好きである。とにかくわかりやすい。選手の固有名じゃなくて背番号で「22番、もっと右だぁ〜」とか言ってくれるので、ナショナル・チームの背番号が所属チームのと違っていたりしても画面でわかりやすい。
先日、シュート本数は23本と相手の5本を圧倒しているのに全然点が取れないし合いを見ていた。実況アナウンサーが「シュート数では圧倒しているんですがねぇ」と松木さんに振ると「べつにシュートの数で争っているんじゃないからシュートの本数を数えてもしかたないんです」って言っているのを聞いて、目標設定の柔軟な変更のできなKPIの例を思い出してしまって笑ってしまった。

KGIとKPIに「KGIやKPIをどのように設定したらよいかわからない」という話がいまだによくある。よくわからないで設定しているから、途中でKPIに未達が発生してもほったらかしであるケースがよくある。

KGIやKPIの設定なんて簡単である。
KGIは、必ず経営に用いる数値を使う。売上とか、利益とかである。このためには日とか週とか月といった単位でどのように目標を設定してこれを監視していくか、というだけの話である。

月に一回しか給料が入ってこないサラリーマンが「1年で100万円貯める」というKGIを設定した時のKPIの例はこのようである。

20150703KGI01

ところが、3月と4月の歓送迎会の時期に調子に乗ってしまって飲み会にお金を使ってしまって2カ月連続で未達が発生した。

20150703KGI02

この例だと、夏のボーナスで2万円余計に貯金することでKPIの修正を行った。でも、物事はこんなに簡単にはいかないので、5月以後、食費をちょっと、本代をちょっと、CD代をちょっと、とか、もっと細かく調整していくというのがよくあるケースで、そうなるとそれまで監視してこなかった食費や本代やCD代も監視の対象になるのである。

企業の場合は
・年間売上1億2000万円。これがKGI。
・これまでの客単価は100万円なので、120顧客。月にならすと10顧客。これがKPI1。
・これまで1成約のためには5見込み顧客と商談しなくてはならなかったという実績。これがKPI2。
・KPI2から、年間に商談を行なう見込顧客の数は600。月に50。これはKPI1を達成するための1レイヤー下のKPI1-1。
ここまで決めて実施してみたら、顧客が増えるとどうしても予算の低い顧客の仕事も受けざるをえないという新知見が発生した。客単価を80万円に修正すると、KPI1はその分数値が上がるし、それに伴ってKPI1-1の見直しも必要になる。ひょっとすると、「5社と商談すれば1件は成約する」というKPI2も見直しが必要になってくるかもしれない。

サッカーのシュートの場合、「5本シュートすれば1本は入る」というアナウンサー氏の知見が否定されて、まだ新たなKPIが発見できていないのである。
なんか、こういう話が多いな、というのが最近の感想である。

2015/05/23(土) 曇り 予算のない企業は、独自のことをやる前に通常通りの手法をしないとダメです

20150523

大企業を辞めてから、予算の少ない中小企業のマーケティングに関するご相談を受ける機会が増えた。
多くの中小企業担当者は「大手と同じことをやっていても物量にまさる大手に対して勝ち目がない。なので、自分たち独自の手法を開発したい」とおっしゃる。たしかにそのとおりなのだが、これではデータを活用したマーケティング手法は使えない。
データ・ドリブン・マーケティングは、ごく普通の手法をきっちりやった結果、他社とどうちがうのか、どこが強いのか弱いのか、を見定めた上で初めて使えるものなのだと実感している。

いつでも他社のやらないような「からめ手」の手法を使って「これは効果がある」「これはダメだ」と判断を積み重ねていっても、他に比較するべきものがないものだから、結局勘に頼った判断しかできない。「この手法で100個売れた」「この手法では5個しか売れなかった」と言っても、手法が良かったのか、表現が良かったのか、たまたまマーケットのタイミングが良かったのか、判断がつかない。その結果、手法の効果があったなかったかを感覚で判断するしかなくなってしまう。

もし自社のデータだけで判断するのなら、自社のデータが十分に大きくないと判断できない。1日に10や20のアクセスしかないウェブ・サイトでは、何が良くて何がダメなのかの判断はつかないのである。

中小企業が「大手のやっていない、自分たち独自の手法を開発したい」と思う気持ちは十分に理解するけれども、その前にまずはごくごく普通の手法をきっちりやっておかないとデータを活用できないのだ。他と同じ手法しかしないのは不安だろうし、担当者は怠けているような気持ちになるかもしれない。でも、まずは基本通りの手法はやらねばならない。

外国のソリューションは、日本のマーケットだけでなくて外国のマーケットでいろいろ試してベストと思われることが実施できるようになっている。自社が試す前に様々なトライ&エラーが繰り返された結果、日本でも販売している物がほとんどだ。「自分たち独自」の道を探る前にこのソリューションを素直に受け入れて、このソリューションの仕様通りの活動を納得いくまで繰り返して、データを十分貯めてから「自分たち独自」の道を探したほうが、結局早いしムダがないし、効果的だと思うのだ。

2014/12/12(金) 曇り 何をどこまで自動化するのか

2014年のF1グランプリで、チームとドライバーの間の無線の内容に関する規制が始まった。

F1グランプリのルールを管轄するFIA(フランス語で「Federation Internationale de l'Automobile」)という団体が、F1チームがマシンやドライバーのパフォーマンスを助けるような無線通信をすることを全て禁止したのである。

http://f1-gate.com/fia/f1_24972.html

これによって、2014年シーズンの後半は以下の内容に関する無線通信が禁止された。

・サーキット上の走行ライン 

・縁石との接触 

・特定のコーナーに対するマシンセットアップのパラメーター 

・他ドライバーと比較あるいは正確なセクタータイムの詳細 

・他ドライバーと比較したコーナー速度 

・他ドライバーと比較したギアセレクション 

・基本的なギアセレクション 

・ブレーキングポイント 

・他ドライバーと比較したブレーキング率 

・基本的なブレーキング率またはブレーキングの適用 

・ブレーキング時におけるマシンのスタビリティ 

・基本的なスロットルの適用 

・他ドライバーと比較したスロットルの適用 

・他ドライバーと比較したDRSの使用 

・オーバーテイクボタンの使用 

・基本的なドライビングテクニック 


これはどういうことかというと、F1競技規約の第201項に「ドライバーは、1人で援助なしに運転しなければならない」と規定されているので、上記のような内容の無線通信をすると「1人で援助なしに」ではなくなるから規制する、ということなのである。


F1の世界の「データ・ドリブン」は、我々が取り組んでいるマーケティングの世界よりもはるかに進んでいて、クルマの走行データをリアルタイムに取得して、どのコーナーではどのギアでスロットルをどのくらい開け、どのタイミングでどのくらいの力でブレーキをかけて、どのくらいのハンドルの舵角で走れば一番早いのかが即座に計算される。

これまでチームは弾かれた数値をドライバーに無線で伝えていたのだ。無線でのこうした交信が禁止されたので、各チームはステアリングに付いているモニターを大型化し、情報をドライバーが読み取って判断するという方法に変えようとしている。

20141212_SauberF1_Steering

http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2623514/The-incredible-graphic-reveals-screens-buttons-dials-switches-Sauber-Formula-1-steering-wheel.html


F1でも自動運転は実は可能で、コンピューターが弾き出したとおりにステアリングやブレーキを操作すれば、最速の運転が可能だ。

でも、それじゃレースじゃないだろう、レースというのは超人的なドライバーが超人的な技を用いて時速300Km以上で走るのだからレースなのだろう、ということである。


マーケティング・オートメーションが、徐々に実現されようとしている。しかし、このオートメーションには反発が大きい。「マーケティングなんか自動化できるわけないじゃないか」と。

マーケティングは、実のところ相当高度に自動化することができる。効果がなくなった広告を即座に別のものに差し替えたり、人によって異なるメッセージを的確に送ったり、だ。

ただし、どうしても今のところ自動化できないことがある。クリエイティブである。

「こんな人にはこういうメッセージを」という自動化ができるのは、「こういうメッセージ」を人が作ってからのことだ。

また、データ・ドリブンなマーケティングは、「負けない」ことには使えるが、「勝ちに行く」のには使えない。

データは、1秒前であろうと1年前であろうと、所詮はすべて「過去」のものである。

敵がこう攻めてきたらこう守る、というのは自動化できる。

しかし、敵が思いつかない攻め方、というのはデータ・ドリブンにはできない。


マーケティングは、自動化できる部分はどんどん自動化すればいいと思う。人間のやるべき仕事は、クリエイティブだ。同じ時間なら運用のような自動化できるために使うんじゃなくて、もっとクリエイティブなことのために使ったほうがいいだろうと思う。 

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