「パナマ文書」事件は、自分には全く火の粉がふりかかってこない世界の話なので、実におもしろい。

「パナマ文書または「パナマ・ペーパーズ(Panama Papers)」とはパナマの法律事務所、モサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)によって作成された一連の機密文書である。
文書は1970年代から作成されたもので、総数は1150万件に上る。文書にはオフショア金融センターを利用する21万4千社の企業の、株主や取締役などの情報を含む詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、公的組織も存在する。合計2.6TBに及ぶ文書は、匿名で2015年にドイツの新聞社「南ドイツ新聞」に漏らされ、その後、ワシントンD.C.にある国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ) にも送られた。80か国の107社の報道機関に所属する約400名のジャーナリストが文書の分析に加わった。2016年4月3日、この文書についての報道は149件の文書とともに発表された。関連企業・個人リストの完全版は同年5月初めに公開される予定なのだそうだ。

この件では、ロシアのプーチン大統領のウラジーミル・プーチン本人の名前はないものの3人の友人の名前は文書にあったり、習近平中国共産党総書記の義兄、李鵬元中国首相の娘、デーヴィッド・キャメロン英首相の亡父、ナジブ・ラザク マレーシア首相の息子、ナワーズ・シャリーフパキスタン首相の子供たち、エンリケ・ペーニャ・ニエト メキシコ大統領の財政的支援者、盧泰愚元韓国大統領の息子、コフィー・アナン元国連事務総長の息子など、政治家の親族の名前が多数掲載されている。

この件を調べていて「あれっ?」と思ったのは、この地図だ。

Countries with politicians, public officials or close associates implicated in the leak on April 3, 2016

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8A%E3%83%9E%E6%96%87%E6%9B%B8#/media/File:Countries_implicated_in_the_Panama_Papers.svg

この地図で色が付いているのは世界の国家の首脳や官僚、またはその係累が4月3日のリークに掲載されている国なんだけれど、これにアメリカが入っていない。パナマの法律事務所なら、本当はアメリカのお金持ちがぞろぞろ出てきて普通でしょう。
ウィキリークスはこの件に関して「今回のプーチン攻撃はUSAIDとソロスが仕掛けたものだ」とツイートした。



USAID(United States Agency for International Development)とは、アメリカ合衆国のほぼすべての非軍事の海外援助を行う政府組織である。「ソロス」とは元投資家のジョージ・ソロスのことである。ジョージ・ソロスは現在は国籍を取得してアメリカに住んでいるがハンガリー出身で、経済学の世界の最高学府の一つであるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのPh.D.である。彼は、ソビエト連邦の崩壊に西側のアドバイザーとして大きな役割を果たした。現在は自らの名前をつけた「ソロス・ファンド・マネジメント」での投資活動から引退して、外部投資家からの資金は全額返金している。哲学者、自由主義的な政治運動家、政治経済に関する評論家としても広く認められており、自身を「国境なき政治家("stateless statesman")」と称している。
(詳しくは https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9 で)

海外援助先の不正に問題を抱えるUSAIDと、特に最近のロシアのプーチンを問題視したソロスがリークした??? だから、アメリカの政治家は出てこない??? ーーー話として面白いけど、どうかなぁ?

かわいそうなのは、悪いことをしていないお金持ちたち。
サッカー選手のメッシやF1ドライバーのニコ・ロズベルグ、俳優のジャッキー・チェンなど。政治家の不正を暴かれる”ついでに”リストに載っちゃった。
彼らはスポーツとか俳優活動をして得たまっとうなお金が山ほどあるわけだけれど、お金持ちのためにはプライベート・バンクがある。うなるほどお金を持っちゃっている人のお金を預かり、価値を減らさないように有利に運用してあげる銀行である。もちろん価値が増えると喜ばれる。
多分メッシもニコ・ロズベルグもパナマの法律事務所になんか行ったこともないし、名前も知らない。自分がこの法律事務所のリストに載っていることも知らなかったんじゃないだろうか。
プライベート・バンクからは時に書類にサインを求められるからそれに応じてはいるけれど、自分のお金がケイマン諸島に行っているのかパナマに行っているのか、シンガポールに置いてあるのか、なんて知らないはずだ。 いい迷惑である。

もう秘匿なんてできない世の中になってしまったね。たまたま今回このようなカタチで表に出てしまったけれど、せっかく隠したはずのものがポロッと出てきてしまう。クラウド上に置いておいた作りかけの音源もリークされちゃうし(マドンナ)、企画中の映画の台本も出てしまう(タランティーノ)。運用を任せたお金のありかも本人も知らないのに出てしまう。 プライバシーを守るのには、物理的な隠遁生活をして、誰も訪ねてこれないような地球の果てに移住しないともう無理だね。そういうところに住んでもドローンが飛んできて映像を撮られちゃうかもしれないけど。